アンソルスラン。「妖艶」という名のバラが放つ、理性を超えた香りの記憶
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バラの世界には数多の品種が存在しますが、その中でもひと際、五感を刺激してやまない特別な存在があります。それが「アンソルスラン(Ensorcelant)」です。
ただ美しいだけではない。一度その香りと姿に触れると、記憶の奥底に刻まれてしまうような引力。
今回は、TAPUTIが大切にする「記憶に残る香り」というテーマにも通じる、この魅惑的なバラの物語を紐解いていきます。
1. 名前が示す「魔法」の正体
「アンソルスラン」という響きには、どこかミステリアスな余韻があります。
これはフランス語の形容詞 "ensorcelant" に由来し、「妖艶な」「魔法にかけるような」「心を奪う」という意味を持っています。
2. 宝飾の血統を受け継ぐ傑作
このバラが生まれたのは、フランスではなく日本の広島県。世界的なバラの育種場である今井ナーセリーによって作出されました。
かつて「KN29-258」というコードネームで呼ばれていたこの花は、ある偉大なバラの血を引いています。
それが、スイスの高級宝飾ブランド「PIAGET」の4代目会長の名を冠した「イヴ・ピアッチェ(イヴ・ピアジェ)」です。
「世界で最も美しい」と評されたイヴ系のDNAは、アンソルスランにも色濃く受け継がれ、宝石のような輝きと香りを宿しています。
3. 季節を巡る、市場の宝石
アンソルスランは主に切り花として流通し、その希少性から市場では「高嶺の花」として扱われます。
主な産地は群馬県のJA前橋市荒砥など。生産者の丁寧な手仕事によって、その美しさは守られています。
植物としては四季咲きの性質を持ち、適切な管理を行えば、春の爆発的な開花だけでなく、秋にはより深く、愁いを帯びた色合いを楽しむことができます。
4. 幾重にも重なる、花弁の迷宮
その姿は、一般的なバラのイメージを覆します。
- ロゼット咲き: まるで芍薬(シャクヤク)のように、クシャクシャとした花弁が密集して重なり合う姿は、クラシックなドレスのようです。
- 妖艶な色彩: 鮮やかなディープピンクを基調としつつ、開花と共に内側から淡いグラデーションが覗きます。
- 重厚感: 花弁数は約80枚にも及び、一輪だけでも圧倒的な存在感を放ちます。
5. “飾る香水”と称される香り
アンソルスランを語る上で欠かせないのが、その「強香(Strong Fragrance)」です。
市場や愛好家の間では、敬意を込めて「〜飾る香水〜」と呼ばれています。
香りの質と成分
その香りは「ダマスク・モダン」に分類され、フルーティーな甘さを含んでいます。
爽やかなティー系の香りとは対照的に、重厚で低音域な響きを持つその香りは、TAPUTIの練り香水のように、肌や空間に纏わりつくような色気を持っています。
一輪生けるだけで、部屋の空気が一変する。それはまさに、天然のルームフレグランスです。
6. 花言葉と、心への処方箋
公式な花言葉は定められていませんが、その名前と佇まいから、私たちは以下のメッセージを受け取ることができます。
- 「魔法」「魅惑」: 名前の由来そのものです。
- 「感謝」: 濃いピンクのバラが持つ意味です。
静かなる癒し
濃厚なダマスク系の香りは、古来より鎮静効果や幸福感を高める効果があると言われています。
忙しい日々の終わり、この香りに包まれる時間は、自分自身を取り戻すための贅沢な儀式となるでしょう。
7. 美しくあるための、少しの手間
美しいものには、棘があります。
- トゲの扱い: 枝には鋭いトゲが無数にあります。扱う際は手袋をするなど、丁寧な所作が求められます。
- 儚い命: 香りが強い花はエネルギーを激しく消費するため、日持ちは短めです。しかし、その儚さこそが「今」という瞬間の美しさを際立たせます。
また、ごく稀に「インカーブ(花弁が内側に丸まり開かない)」現象が起きることがありますが、それもまた、気まぐれなこのバラの個性の一つと言えるかもしれません。
余談:駆け抜ける「アンソルスラン」
ちなみに、競馬の世界にも同名の競走馬が存在しました。54戦を戦い抜いた彼女もまた、その走りで多くのファンを「魅了」した存在でした。
まとめ:アンソルスランがもたらす極上の日常
アンソルスランは、単なる花という枠を超え、私たちの生活に「魔法」をかけてくれる存在です。
その妖艶な姿と、部屋中に広がる香水の香りは、何気ない日常を瞬時に特別なものへと変えてくれます。
最高級の香水瓶の蓋を開けたまま、部屋に置いておくようなもの。
その香りの波は、一瞬にしてあなたの空間をパリのサロンへと変えてしまうでしょう。